春の団地の広場に集まった、町内清掃の朝。
いつもなら何気なく終わるはずのその日、ひとりの女性が──ふと、目に留まった。
黒のリブニット。
柔らかく身体に寄り添うその布が、春の陽に艶めきながら、まるで“何か”を語りかけてくる。
三号棟の良子さん。
普段は地味な格好で、言葉を交わすこともほとんどなかった女性が、今日はなぜか──違っていた。
そして気づいたのだ。
彼女のその服の下に、「あるはずの線」が、なかったことに。

風に揺れるニットの裾、かすかに浮かぶ肌の曲線。
「見せたくて、着たのかもしれない」
そんな妄想が、胸の奥に火をつける。

しかし、それは決して軽い誘惑ではなく──
不器用で、真っ直ぐで、誰にも言えなかった想いが、ゆっくりとほどけていく時間だった。
「昔はね、こういうの、もっと平気だったんですけど……」
「でも最近は、どうすればいいか分からなくて……」
「あなたが見てくれたらって、そう思ったんです」
少しずつ近づいてくる手。
何度も逸らされる視線の奥に、隠された「誘い」。
言葉で語るよりも、仕草や服装、そして沈黙の間が──
彼女の「女としての願い」を、強く、静かに伝えてくる。
やがてふたりは、部屋の中で紅茶を飲みながら、そっと心を重ねていく。
ニットが肌にまとわりつく感触も、そっと重なった指先も、
まるで春の風が運んできた、再会のような温もりだった。
「もう、見せたんですから……責任、とってくださいね?」

この一言で始まった、ふたりだけの午後──
それは、決して若さの情熱ではない。
けれど、誰よりも深く、あたたかく、そして真っ直ぐな「恋のはじまり」だった。
💫 この物語は、“恋を諦めかけた大人たち”に贈る、静かなエロスの記録です。
本編を読んで、あの春の日の「柔らかな鼓動」に触れてみてください。
👉 あの日、良子さんが黒ニットに込めた“想い”の続き

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