耕されたのは、土じゃなかった

巨尻

──「ナスの曲がり方って、ちょっと想像しちゃうわね」その言葉で、俺の理性がひとつ崩れた。

最初に心を奪われたのは、畑の“後ろ姿”だった。
しゃがむたび、腰のラインに沿ってなじむ作業着の布。
立ち上がる瞬間、ふわりと浮かぶ影。
たったそれだけの情景に、胸の奥がざわめいたのを覚えている。

家庭菜園なんて、ただの健康対策。
そう思っていた俺の中に、静かに何かが入り込んできた。

彼女は、50代の後半。
よく焼けた肌に、深く刻まれた笑いジワ。
それなのに、身にまとう空気がなぜか柔らかくて、匂い立つようだった。

作業のたびに変わる色味の服。
その中でも、ベージュの日は危険だった
陽に透けて見える輪郭。
あの布の下を想像してしまう自分に呆れながらも、視線は離せなかった。

やがて、彼女は一言、こう言った。

「この曲がり方、想像をかき立てるかもね」

ナスをくるくると回しながら。
その一言に込められた“仕掛け”を、俺は見逃さなかった。
わかっている。
見せている。
誘っている。

雨の日、ふたりきりの資材小屋。
濡れた作業着が肌に張りつき、息づかいすら熱を帯びる。
言葉は少なかったが、空気はすべてを語っていた。

そして彼女が言った。

「あなたの野菜で、料理してみたいの。できれば…あなたのキッチンで」

この歳で、女の背中を目で追っているだけで胸が高鳴るなんて。
それでも、確かに今の俺は“男”に戻っていた。
土の匂いと汗の熱。
その奥で、耕されていたのは野菜じゃない──俺の心だった。

彼女の存在が、俺の暮らしのリズムを変えた。
早起き、労働、食事、そして妄想。
ただの畑が、“期待”の場になっていた。

だが、この物語の続きを語るには、まだ少しだけ早い。

あの雨の日の小屋。
あの視線の余韻。
そして、“ナスの角度”をめぐる、ふたりの無言の駆け引き。

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